文責:西山祥紀(経4)
●山行日 2016年5月14日~15日
●メンバー 西山祥紀(現役部員・経済学部4年生)
●コース
5/14(土)後山ルート
13:05黄山風景区バスターミナルでバスに乗る
13:30雲谷寺
14:00雲谷寺から登山開始
17:00白鵜峰
17:30光明頂
18:30日没を見届ける
19:00ホテル、獅林大酒店に到着
5/15(日)前山ルート
10:30獅林大酒店出発
12:30玉屏駅到着、ロープウェーに乗る
12:45慈光閣に到着
●天気
5/14(土)快晴
5/15(日)大雨
●概況と感想
○1日目 5月14日
中国には五岳归来不看山,黄山归来不看岳(五岳に登ったらもうほかの山は見ない、黄山に登ったらもうほかの五岳は見ない)という有名な諺がある。これは、中国には五岳(泰山,华山,衡山,恒山,嵩山)という群をぬいて美しい山が5つあり、そのうえ黄山はその五岳をしのぐほどの景勝地であるという意味だ。私、西山はその巷間で非常に高く評価されている黄山にこのたび登攀したので、これを山行記録として記したい。
普段の部活動で訪れている奥多摩の山々とはちがった景観を楽しむことができるため、この文章をご覧になっている方にもぜひ足を運んでいただきたいと思っている。そこで、黄山までのアクセスから現地でのトラブルなどの留意点、そして現地での感動を仔細かつ切実に述べたいと思い、筆を執った。本稿を機に、数多くの読者が中国を始めとした海外山行にも関心を寄せてくれれば本望である。なお、現地で購入した地図二部を山岳部室に寄贈するので、登攀予定の方はぜひこの地図を参考にされたい。
私は北京市から黄山にアクセスしたのだが、このルートだと唯一の直通列車である快车(快速寝台列車)で21時間もかかる。不自由な空間でほぼ丸一日過ごすわけだから、私のように旅程の値段を極限まで切り詰めたいという人間でない限り推奨されない。また、列車は常に乗車率100%近くあると思われるので、ネットを通じ事前に切符予約するほうがいい。黄山には空港もあるようなので、お金はあるが時間のない読者には飛行機で一気に現地に向かうべきだ。黄山火车站(黄山鉄道駅)に到着したら、駅前にある直通バスにのり黄山の麓までアクセスすることができる。タクシーという選択肢もあるが、タクシーはだいたい100元以上要求してくる一方で、直通バスでいけばだいたい25元ぐらいで済むので、バスが望ましい。なお黄山に限った話ではないのだが、中国の観光地にはメーターを回さず、高額な言い値で車に引き入れるだけにとどまらず、さらに降り際に言いがかりをつけてきて値を釣り上げてくる悪質なタクシーが少なからず存在する。私のような言葉に不自由な外国人、かつ地図とスマホを持ち不安げにさまよっているような若者はまさしく奴らのいいカモであり、それゆえドライバーの不実な態度に何度も煮え湯を飲まされてきた私は、タクシーの使用は基本的に決して推奨しない。私たちは、外国では現地のタクシードライバーに対し圧倒的な情報劣位にあることはいかんともしがたいからだ。
前述のバスにのり新国线黄山风景区汽车站(黄山風景区バスターミナル)につくと、ここで云谷寺(雲谷寺登山口)または慈光阁(慈光閣登山口)のどちらかの登山口行バスに乗り換える。私は往路は雲谷寺登山口に向かい、往路は慈光閣から同バスターミナルに帰還した。ちなみに、私の辿った往路のルートを後山、復路のルートの前山というそうだ。余談であるがバスターミナルのそばにはたくさんの大衆食堂が林立していて、店頭のウィンドウにはチンジャオロース一品10元などと書いてあるため手頃なお値段かと思い込んでしまうかもしれないが、店頭に書いてあるもの以外の一般料理の値段については、メニューの一番最後のページに一品100元(時価2000円相当)などと非常に小さな字で書いており、料理の値段を確認せずにどんどん注文すると非常に高額な値段を請求されかねないので注意されたい。私は自分の不注意により全所持金の30%を一瞬にしてここで使い果たしてしまうというあるまじき失態を犯し、後々苦労することになる。
さて本題に戻ると、後山ルートの雲谷寺・慈光閣登山口からはそれぞれロープウェーが通っており、たくさんの登山客がロープウェーに乗るべく列をなしている。が、自分の足で汗水を流しながら一歩ずつ山道を踏みしめて登攀してこそ、真の山岳部員ではないだろうか?ということで私は雲谷寺~白鵜峰までの約6.5キロの道を3時間かけて登りあげた。黄山は世界複合遺産ということで国内外からたくさんの登山者が訪れるため、道中飲食店のスタンドやごみ箱、登山道などのインフラが非常に充実している。山中に点在しているスタンドでは、リンゴやナシ、はてやトマト・キュウリといった果物や野菜が売られていたのが興味深い。折しも露店のそばで休んでいた中国人が教えてくれてことには、こうした野菜や果物は水分補給にもなるし栄養価も高く、いわばミネラルウォーターの代替的なものになるため、凡そ中国の登山客はこうした野菜・果物を好んで食べるそうだ。
道中では、遠目に雲と霧が薄くかかった鋭い岩肌に、おそらくマツの木かと思われる背の低い木が懸命に葉を広げている景観が指呼の間に広がる。まるで世俗と懸隔された、水墨画の世界に迷い込んだかのようだ。こうした風土は大学近郊の山ではあまりお目にかかることができないので、一見の価値がある。そのまま山頂の光明頂にむかい、18:30頃になるとゆらゆらと熟れた夕日が落ちていき、堅牢な岩肌がその夕日を淡く映している様子にしばらく見入る。そして、8人部屋の本日のねぐらに踵を返す。光明頂から私の宿泊先であった獅林大酒店までは30分もあればつく。テントを持ち込んで頂上で宿泊する者もいるそうだが、天候の不確実性から私は断念した。
○2日目 5月15日
翌日、日の出を見ようとする同室の中国人の声で目が覚めるが、すごい大雨だ、なんてこったなどと口々に騒いでいる。そう、標高1700メートル強の黄山は一夜にして快晴から大雨に天候を転じたのだった。現地の天気予報では曇りと報じていただけに、ショッキングな出来事だった。暗い話になってしまうが、復路の前山ルートはかかる事由により登山道が大きな傘と原色のかっぱで覆い尽くされ、興が冷めてしまう。あまり登山という行為を楽しむことができなかった。帰りの鉄道の都合上ロープウェーにのり慈光閣登山口まで一気に帰還した。せっかくの海外山行なのに、両日とも天候が崩れていたらと考えると慄然する。
総括すると、黄山はその雄大な自然をもつがゆえに、さまざまな文化人の磁場ともなり、世界複合遺産に登録されるまでに至った景勝地・名勝地の両側面をもつ場である。その圧倒的知名度ゆえに、道中でスタンドやロープウェーが設けられていて、登山道が非常に整備されているため日が暮れても歩くことができるなど、観光地として徹底的にデフォルメ化されている。そのため、たとえ雨の中風の中でも荒地を突き進むたくましい山岳部の読者にとって、黄山の登攀は物足りないかもしれない。また何しろ観光客でごった返しているので、悪天候に見舞われたら一気に興が冷めてしまうだろう。しかし、黄山からのぞくことのできる景観は「黄山归来不看山」の名に恥じないほど美しい。本稿によって黄山に関心をもっていただければ、私としても非常に幸いである。
5月14日 15:30頃
雲谷寺側にあった中国らしい看板
5月14日 16:45頃
道中でキュウリを食べる中国人
5月14日 17:30頃
白鵜峰の側の絶景
5月14日 19:30頃
光明での日没の様子
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