天気
6/16 晴れのち曇り
6/17 快晴
☆コースタイム
6/16(1日目):国立駅0810===1030舟山十字路1045---1300立場山1320---1330青ナギ(泊)
6/17(2日目):起床0400→青ナギ0450---0515無名峰0525---0540P10541---0550P20600---0615P3ルンゼ取付き0620---0635P30645---0655P4取付き0750---0815P40816---0825阿弥陀岳山頂0900---1020不動清水分岐1021---1045御小屋山1100---1210舟山十字路
☆行動と感想
<1日目>
国立駅からOBさんの車に乗せていただいた。あまりにも乗り心地が良いのでうっかり寝そうになるがぐっとこらえる。16日は雨予報だったが、予報が外れて気持ちのいい青空が広がっていた。ちょっと寝た。
予定より少し早く舟山十字路に到着した。すでに車が7台ほど駐まっており、私たちが到着したすぐ後にも車が2台やってきた。ガイドを伴ったパーティーだったので、私たちと同じ南稜ルートを行くようだ。同じルートを行く人がいるのは安心であると同時に、落石のリスクが増える等不安な面もある。
軽く準備体操をしてから出発した。今日は700mほど上がるが、計画書通りなら2時間弱で青ナギに着く予定だったので、気持ちは楽だった。しばらくは林道歩きが続く。暑い。長い。45分くらい歩いてようやく林道が終わった。『入山禁止!違反者は10万円いただきます』との貼り紙が散見されたので不安だったが、キノコ採り目的の人に向けたものだろうと判断した。旭小屋と名のついたボロ小屋から左に進んでいくと、いきなり急登が始まった。踏み跡は明瞭だったが、かなりザレていたので落石を起こさないよう注意して歩いた。
5分ほどで尾根上に出たが、ここからもかなりの急登が続いた。まさに八ヶ岳といった雰囲気の樹林帯をひたすら登る。ツェルトを張るために持ってきたトレッキングポールを使って登ってみたが、慣れないので逆に疲れてしまい、すぐにしまった。何度か休憩をはさみつつ、1時間半ほど登ると傾斜が緩くなり、平行移動していくと立場山に着いた。OBさんは後からゆっくり登っていらしたので、OBさんを待つ間、現役部員4人でお笑い談議に花を咲かせた。ナイチンゲールダンスというお笑いコンビが一橋の卒業生だと知って驚いたころにOBさんが到着した。
そこからもほぼ平行移動で、10分ほどで青ナギに着いた。今日はもうこれで終わりだ。青ナギは、写真で見たよりも5倍くらいスケールが大きい気がした。背後には明日登る南稜が見えたが、思っていたより急峻で少し不安になった。ツェルトを張るスペースは十分にあり、2人1組で協力してツェルトを張った。張り綱が長すぎたのか、ツェルト1張りにつきかなりのスペースを使うことになったのは少し予想外だった。
まだ14時。夜ご飯を食べるには早すぎる。石で作った簡易かまどが残されていたので、たき火をすることになった。失敗した。
夜ご飯は、各自が持ってきたアルファ米やレトルト食品を食べた。舟山十字路近くの水場以降は、明日の下山路の途中まで水場がないので、水を無駄にしないことをいつも以上に心がけた。
バリエーションルートにトイレはない。トイレの場所を決めておく必要があった。「気持ちよさそうだから青ナギにするか」という意見も出たが、「滑落して死体で見つかった時に恥ずかしい」ということで近くの林をトイレに定めた。
今回の山行で一番つらくてしんどかったのはここからだった。夜である。
夜ご飯を食べ、トイレを済ませた私たちは、明日の起床時刻と出発時刻を確認し、それぞれのツェルトに入った。電波は余裕で届いていたので、しばらくLINEやらツイッターやらをした。少し眠くなってきたので寝ることにする。今回は軽量化を図るために、各自シュラフは持ってきていない。その代わりにシュラフカバーとエマージェンシーシートで寝る。ビバーク訓練も兼ねているので仕方はないが、すこし不安だった。19時から0時までは寝られた。しかし、寒さで目が覚めて以降は全く寝られなかった。しっかりエマージェンシーシートにくるまっていても寒い。どうしたら寒さを防げるのかさっぱりわからなかった。気温は4℃くらいのはずだが、それよりも低い気がした。甲高い動物の鳴き声が聞こえる。そういえば、さっき近くに熊の足跡らしきものと、熊のフンらしきものがあったな...。え、熊ってこんな声高いの?怖い怖い怖い怖い...!寒さと怖さで震えながら4時間耐え忍んだ。
<2日目>
長い夜が明けた。朝食は各自がツェルト内で食べることになっており、私はようかん2つとアミノバイタルを食べた。体を起こすと頭がビショビショになった。ふと見ると、結露してツェルトが水滴で埋め尽くされていた。テント泊ではほとんど起きなかった現象なのでショックだった。とりあえず荷物を外に出して、ツェルトの撤収を始めた。ちょうど他のメンバーも撤収を始めるところだった。やはり皆寒さで寝られなかったという。「足が冷えるなーと思ったら、足がツェルトの外に出ていた」という人もいた。
準備が済んだらすぐに出発した。日は出ていたので明るい。雲一つない最高の天気だった。南稜から阿弥陀岳山頂までの道のりがはっきりと見えた。青ナギの上を歩いていく。高度感はそこまでないが、落ちたら死ぬのはほぼ確実だろう。左手には北アルプスがすべて見え、右手には権現岳のモルゲンロートが見えてとてもきれいだった。
無名峰までは急な登り。岩場はまだ出てこず、昨日の道と似ている気がした。45分くらいかかると踏んでいたが、25分であっさり無名峰に到着。ここでハーネスを装着した。ここからがいよいよ本番。緊張と興奮が入り混じっていた。
踏み跡を辿って歩いていく。すぐ近くに大きな岩のピークがあったので、これがおそらくP1(ピーク1)だろうと思った。左を巻いて進む。少しザレていたが、一般ルートと特に変わらない。難なくP1を通過。
稜線は狭くて高度感も多少あるが、両側にハイマツがあるので怖さは感じなかった。少し歩くと、また大きめの岩のピークがあったのでP2と判断した。ただ、それらしきものはいくつかあったので断言はできない。これも左から巻いて、草付きの道を登る。足の踏み場はしっかりしていたが高度感があり、慎重に歩いた。これも難易度は一般ルートレベルだった。稜線上の少し広いところで休憩する。景色が素晴らしい。見事な雲海が広がっている。東には険しい真教寺尾根、南には権現岳と編笠山、南アルプス、そして富士山。西には中央アルプス、御嶽山、北アルプス。癒しの時間だった。
阿弥陀岳南稜の核心はP3である。昨日青ナギからも見えたが、そこからでもはっきり識別できるほど大きい。近付くにつれてその迫力は増していった。P3直下でザイルを出した。予定としては、まずOBさんと現役部員1人がフリーでルンゼを登り、支点にザイルを固定して下に垂らす。そして、残った3人はプルージックコードを使って登る、というものだった。
踏み跡に従って、草付きの道をトラバースする。途中にプレートがあった。P3直登ルートの取付き点のようだ。ホールドは豊富にみえたが、とても登れる気がしなかった。トラバース後裏側に回り、少し下るとルンゼの取付き点についた。そこからルンゼ上に出るのが核心である。傾斜は70度ほど。OBさんと部員1人が、設置されているワイヤーとスリングを頼りに登っていく。私を含め残った3人は、細いワイヤーにカラビナをかけて自己確保して待っていた。
プルージックを使えば滑落の危険はあまりないので、とても気が楽だった。前々からP3が不安だったので、そこを安全に行けるのかと思うとニヤニヤが止まらなかった。
「ルートがまっすぐじゃないし、ザイル垂らすのは厳しい。フリーで上がってきて。」一瞬耳を疑った。一気に天国から地獄に突き落とされた気分だった。けれど仕方がないので勇気を振り絞って取付く。核心部はワイヤーにカラビナをかけて確保しつつ通過。上を見上げるが稜線は遥か彼方。死なないことを目標に手足を動かしていく。
ルンゼ内は濡れていた。水が流れている場合もあるらしい。難易度としては大したことは無いはずなのだが、滑るのではないかと不安で怖かった。そんな時に思い出したのが、先日お世話になったピオレドール賞クライマー天野和明さんの言葉だった。『怖いところを怖いと思え。怖さを感じることができないのは、山を登る人としては致命的だ。』この言葉のおかげで、「あ、怖いと思っていいんだ」と思うことができ、すこし気が楽になった。そこからは怖さを感じつつも順調に登っていたが、突然「ラーク!」という声が聞こえた。上をみると、3~5㎝ほどの石が自分に向かって転がってきていた。動く間もなく、落石は左ひざの少し上に当たった。痛かった。もちろん落とした人も悪いが、登ることに夢中になって、上の人との位置関係をあまり考慮していなかった自分も悪い。『山は自信がつき始めた時が一番危ない。』これは以前先輩から聞いた言葉だっただろうか。改めてその言葉が意味するところを痛感した。
先頭のOBさんが行ったルートが難しそうだったので別のルートを探してみると、右手の草付きに踏み跡があったのでそちらを選択した。一歩分の踏み跡が階段のように続いている。傾斜はそこそこあるが、足場がしっかりしているので楽だった。少し登って左にトラバースすると稜線上に出た。ようやく南稜の核心部をクリア。時間は短かったが、緊張の連続で大変だった。
そこからまたしばらくザレた稜線を歩いていき、P4の取付き点についた。ここを超えれば山頂はすぐそこだ。岩場をいったんトラバースしてからP4の脇を登っていくというルート。通常はフリーで行くが、今回は練習としてフィックスロープを張る。
ハーケンを打ち込み、スリングを通して支点を構築する。現役部員2人がそれぞれリードとビレイヤーになった。リードが進み始め、それに合わせてビレイヤーがザイルを送り出していく。私は正直不安だった。なぜなら、私たちはそもそもリードクライミングの経験すらなく、また、10mほどトラバースする間に支点は作らないので、フォールした場合に、下には落ちないが振り子の要領で岩壁に激突することが考えられたからである。実際は順調に進んだが、夏の北鎌までにこの点はしっかりと改善しておかなければならない。
リードはトラバースの終了地点に中間支点を構築し、そこからは上に登り、5mくらい上がったところに終了点を構築しはじめた。ハーケンを打ち込む際に、本来はだんだん打ち込む音が高くならなければいけないところ、だんだん鈍い音が聞こえるようになっていったので心配だったが、ほかに打ち込むところはなかったようだからどうしようもない。すこしすると、リードは構築が終わったのか、上に行ってしまって姿が見えなくなった。OBさんはこのことについて少々腹を立てていた。登攀においてコミュニケーションは非常に重要なのでお怒りになるのも無理はないが、初めての経験なので仕方がないのではないかと思った。
リードを呼び戻して終了点が構築されたことを確認し、カラビナをフィックスロープにかけて進み始めた。ロープが邪魔になり、フリーよりかえって危ない気がした。中間支点から終了点まではザレていて危なかった。また、岩がぽろっと剥がれ落ちたりして、手がかりにも少し困った。ロープを張っている途中に先に行ってもらった方が3人いたが、いずれももう1つのルートを選択していた。ルートファインディングというのもリードの非常に重要な役割だということを改めて感じた。
現役部員4人全員が終了点にたどり着いた。残っていたOBさんはハーケンを回収しなければならないのだが、ハンマーはこちらにある。1人がハンマーだけを届けてまた戻ってくる必要があった。通常は先頭と最後尾がそれぞれ1つずつ持つらしい。
ハーケンとザイルを回収し、ようやく再出発する。ここだけで1時間半近く使ってしまった。ただ山頂はすぐそこのはず。草付きの急登を登り終えて稜線に出た。しかし山頂は見えない。目の前に大きな岩があり、その脇を右にトラバースし、ちょっとした岩場を登る。高度感があって少し怖かった。そこを超え、ザレた急登を少し登ると突然山頂に出た。
達成感でいっぱいだった。ようやく緊張がとけ、急におなかがすいてきた。景色は最高。さっきまで見えていなかった八ヶ岳北部が見えた。その日は同じ山岳部の別パーティーが蓼科に登っていたので、今どのあたりにいるのだろうと蓼科を見ながら考えた。
計画書では赤岳も登ることになっていたが、アップダウンがかなり激しそうで、全員登ったことがあるというのもあって、満場一致で登らないことになった。
下りの御小屋尾根は一般ルートだが、鎖場が出てきたり、ロープが何度も出てくるなど気を抜けなかった。中央稜との分岐も紛らわしかった。ひたすらガレ場の急坂をくだる。景色はとても良かった。そのうち森に入り、不動清水の分岐を通過。その後またしばらく歩くと傾斜が緩くなり、長い平行移動を続けていって御小屋山に着いた。もう危険箇所はない。少し進むと分岐があった。先々週の蓼科では下りでルートを間違えたので慎重に進む。次第に傾斜がきつくなってきたところでトレッキングポールを取り出す。いざ使ってみると最高だった。膝の負担が減っていることが明確に分かった。快調に下っていくと、いつの間にか道が広くなっていた。どうやら林道に出たようだった。地図上では少し林道を行くと分岐があることになっていたが、実際に行ってみると、舟山十字路に行かない道は封鎖されていた。道なりに進み、突き当たりで右を見ると、すぐそこに舟山十字路があった。下りに要した時間は3時間。長かった。
初のバリエーションルートだったが、無事に踏破することができてとりあえずほっとした。普段の縦走では味わえないスリルが満載でとても充実した山行だった。また、天野さんと先輩の言葉を思い出して、自分を見つめなおすいい機会になったという点でも収穫があった。改善しなければならない点も見つけることができた。これから修正して、今夏の北鎌・源次郎に活かしていきたい。
P4取付きより富士山と権現岳を望む(6/17 7:28 撮影者:三宅)
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